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スタジオ『チセ』は、オンライン小説サイトです。
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<スタジオ『チセ』>
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<久遠>
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大きな宝物

 空は自由だった。何処までも無限に広がっていて、沢山の表情を見せてくれる。
 真っ白な空、真っ青な空、真っ赤な空、真っ黒な空。それらが混ざり合った複雑な空の色。
 此処に――一羽の鳥が空を飛んでいる。
 力一杯に両の羽根を広げて、地上の重力に逆らうように空を飛ぶ。初めは雛鳥として羽ばたく術と力を身に付けて、大人になったら満足の行くまで空を舞う。
「ボクは、空を飛ぶのが好きなんだ」
 一羽の鳥は、男の子のツバメで、他にも沢山の仲間がいた。
 けれど、都会で生まれ育ったことから、大自然をあまり知らない。産まれ、卵から孵った時から大きな高層マンションが住処であり、外敵の心配もなかった。だから、「戦う」術も、「身を守る」方法も、全てが分からない。
 ただ、空高く飛んで、お腹が空けばご飯の虫を捕まえて、疲れたら休んで、一日の終わりに巣に戻る。そんな平凡な一日を飽きもせず続けていた。人間に飼われるなど、持っての他で、在り得ないことだった。
 でも、その日だけは違っていた。
 夏。いつものように都会の空を風を切るように飛んでいた時のこと。
「あ、あれ……変だなぁ」
 両の羽根が重く、千切れるように痛くなる。
 呼吸は荒れに荒れて、虫も思うように捕まえられない。
「はぁはぁ……身体が、羽根が重いよ……」
 次の瞬間だった。
 バサバサバサッ、と木々の中へと落ちてしまう。幸い、枝や葉っぱが衝撃を吸収したようで、命に別状はなかった。が、ぶつかった拍子に、羽根をひどく痛めて、再び飛ぼうにも自由が利かなかった。
「痛いよぉ……」
 自身、どうして落ちてしまったのか、力が抜けてしまったのか、分からなかった。ただ、気づいた時には異常を来たし、我に返った時には地面に落下、這い蹲っていた次第だ。
 そこへ、パキパキッと落ちた枝が折れる音と共に、野良猫が近づいてくる。
「の、の、野良猫だ……」
 まだ、遠くに位置している為、気づかれていないが、それも時間の問題だ。
 このままでは、襲われて、最悪の結果として食べられてしまう。
「逃げなきゃ……っ」
 でも、羽根は使えず、細い両足で歩いたり、走ったりで逃げるしか方法がない。恐らくは、すぐに追いつかれるだろう。そうであっても、この場でじっとしているよりかは、何倍も良いのかも知れない。
 ぴょん、ぴょん、と飛び跳ねるように一歩ずつ離れていく。
 然し、野良猫の脅威から逃げた矢先、今度は道路を渡らなければならない。
「どうしよう、どうしよう……」
 来た道を戻れば、野良猫に食べられる。前に進めば車に轢かれてしまう。
 どれだけ考えても、「最善」が見つからない。太陽が昇りきっている為に、このままでは体力も失くなって、干からびてしまい兼ねない。
 その時、視線の位置が高くなった。
「え……っ」
 全身を包み込まれる感触に、遂には「死」を意識せざるを得ない。
 バイバイ、友達の皆。パパ、ママ、産んで育ててくれてありがとう。
 が、小鳥の予想は良い意味で裏切られる。
「こいつは、ツバメじゃないか。弱ってて、飛べないんだな」
 それは、少年だった。
 帽子を深く被り、服を泥で汚した子供だった。
「良し良し、すぐに看てやるからな」
「……ピッ?」
 暴れたくても暴れられない小鳥は、まさに為すがまま。
 次に目覚めると、凄く大きくて、広い部屋の中にた。
「ちょっと待ってろ。すぐに準備して病院に連れて行ってやるからさ」
 だが、小鳥には人間の言葉が分からない。分からないから、何をされるのが不安で仕方ない。
 そのあとで、嫌な香りの漂う真っ白い部屋に連れられて、同じ真っ白な人間に身体や羽根を触られた。
「どうですか?」
「脱水症状でしょう。水分と栄養のあるご飯を与えて下さい」
 少年は、獣医の診断にホッと胸を撫で下ろす。
「良かったなぁ、お前。あのままだったら、死んでたぞ?」
 そうして、また広い部屋。
「エサと言っても、ミルワームしかないけど」
 突如、食欲をそそるご飯の匂いが鼻を刺激した。
「ピッ……ピッピーッ」
 倒れて落ちるまで、まともにご飯を食べていなかった小鳥は、少年から与えられるミルワームをお腹一杯になるまで食べた。
「ピッピピー」
 小鳥は考えていた。どうして人間がご飯をくれたりするのだろうか、と。
 対して、少年は独り言のように小鳥に話しかけた。
「暫くの間、名前も必要だなぁ。うーん、ピィ子ちゃん……違うな。ピィ太、これも駄目だな。ピッピ……うん、これにしよう」
 少年は、自信満々に、
「おい、お前は今日からピッピだ。宜しくな」
「ピッ」
「そうか、そうか。嬉しいかっ」
 その日から、人間との奇妙な共同生活が始まった。
 相変わらず、人間の話す言葉が理解できない、とピッピは思っていた。でも、何故か大好物の虫をくれるから、外敵ではなさそうだ。
「しっかりと食べろよ。じゃないと、空を飛べないからな」
 少年は、ピッピを看病した。ピッピは、日を重ねる毎に回復した。
 ひどく痛くて動かせなかった羽根も、辛うじて動かせるようになり、まだ完全に、完璧に空を舞うことはできないが、枝から枝へと飛び移ることはできるようになった。
 次第に、少年への警戒心も解け始め、安心できる存在にもなった。
「ピッピ、今日もご飯だぞー」
「ピッ、ピッピー」
 少年は、虫を食べさせながら、ピッピにあることを訊ねる。
「なぁ、空を飛ぶってどんな感じなんだ?」
 空に憧れていた少年の夢は、ヘリコプターや飛行機のパイロットだ。
 大人になったら、パラグライダーを楽しみたいとも思っているほどで、その為の勉強もして来ていた。
「俺、空を飛ぶのが夢なんだ。きっと自由で、凄く気持ち良いんだろうな。風を切る感覚とか、ジェットコースターでしか知らないし……」
 少年の、ミルワームを持つ指が一瞬だけ止まった。
「空が飛べたら……祖父ちゃんに会いに行くんだ」
 少年には、つい最近に失くした祖父がいる。祖父は、享年九十歳で、小型機のパイロットをしていた。生前には、よく空を飛ぶことの自由について話しを聞かされ、自然と少年自身も空へ憧れを持つようになった。
「祖父ちゃんはさ、あの戦闘機だって操縦できるんだぜ? 凄いだろ?」
 満面の笑みを浮かべつつ、少年は尚も言葉を続けた。
「これは、祖父ちゃんとのゲームってやつでさ。ピッピだけに教えるけど、空に宝物が隠されてるんだ。俺は、その祖父ちゃんが隠した宝物を見つける為に絶対にパイロットになってやるんだ」
 祖父が生前に言った「宝探し」のゲーム。
 利き手の指にピッピを乗せながら、同じ目線にして更に、
「祖父ちゃんとの最後のゲームだから……絶対に見つけるんだ」
 ピッピは、首を傾げた。
「ははは、は、お前に言っても分からないよな」
 苦笑いをする少年に、ピッピは「ピッ」と鳴いた。
 夜。ピッピは、窓際にある比較的に大き鳥かごの中から空を見つめた。
「また、空を飛びたいなぁ。でも――」
 ピッピは、一つ気がかりだった。
「この人間は、とても良い人間だ。ご飯もくれるし、怖いこともしない」
 それに、この人間の笑顔は、見ているととても落ち着ける。安心できる。
 何なんだろう、この気持ち。
「ピー……」
 眠っている少年に聴こえるか聴こえないかの高さで鳴いた。
 羽根を動かしてみる。もう痛くはない。今なら、また自由に飛べると思う。
 翌朝。少年は、 一枚の写真をピッピに見せた。
「これ見てみろよ。何か分かるか?」
 写真には、同じツバメが写っている。その足首には、赤いテーピングが巻かれている。
「ピッピと同じ仲間で名前はないけど、祖父ちゃんが看病してたんだ。丁度、お前と同じで倒れていたんだ。祖父ちゃんは、最後には逃がしちゃうんだけど、その時に目印を付けててさ。そう――それが宝物なんだ」
 少年は、意気揚々と興奮気味に話し続ける。
「このツバメに巻かれてるテーピングに、祖父ちゃんが遺した宝物のヒントが書かれてるんじゃないかって、俺は推測してるんだ。けど……そのツバメを探し出すなんて、不可能じゃん?」
 それでも、
「祖父ちゃんとの最後のゲームだから、やっぱり勝ちたいんだよなぁ。ピッピも手伝って――無理に決まってるか。でも、もしもお前が奇跡を呼んでくれるなら……」
 祖父ちゃんと同じようにツバメを拾って、看病しているんだ。偶然と捉えるには、あまりにも出来過ぎてる。
「ま、恩返しは要らないけど、せめて切欠になってくれたらなぁ」
 それから、三日、五日、一週間と流れた頃。
 この日は、いつもと違い鳥かごの扉が開いていた。廻りは、木々が生い茂る。
「さあ、ピッピ。お別れだ。寂しいけど、いつまでも閉じ込めておく訳にはいかないからな」
 言って、少年はピッピの片足に祖父のしたことと同じことをした。
 色違いの青い粘着性の弱いテーピングを巻いたのだ。
「ピッピ、こいつはおまじないみたいなもんだよ。何か、お前が導き合わせてくれそうな、そんな予感がするんだ」
「ピィ?」
「さあ、もう行きな。今度は、倒れたりしないようにな?」
 鳥かごの中から窓際に立った。あと少し進むだけで、羽ばたいて行けそうだ。
「…………」
 少年に振り返る。少年は、涙目に少しなりながら、笑顔を作っていた。
 それを見て、ピッピは思う。
 言葉は分からなくても、これはきっとお別れの合図なんだ、と。
 分かってしまったからこそ、羽ばたいて行くことに抵抗を感じてしまう。
「じゃあな、ピッピ。短い間だったけど、楽しかったよ」
 少年は、ピッピを鳥かごから出すと、鳥かごの入口を閉めた。そのあとで、少年は一歩ずつゆっくりと、確実に来た道を戻っていく。
「バイバイ、ピッピ。祖父ちゃんのツバメに宜しくな」
 少年が離れていく。少しずつ、姿が遠くなっていく。
 そうして、完全に見えなくなると、あとにはピッピだけが残された。
「ボク……ぼっちになっちゃったの?」
 もう、大好きな虫もくれないの?
 もう、あの温かい日常には戻れないの?
「何で……ボク、こんなに悲しいの?」
 不思議と胸の辺りが痛くなって、瞳に熱いものを感じた。
 気づくと、ピッピは泣いていた。
「嫌だよ……ボクを、置いていかないで……っ」
 ピッピは、見えなくなった少年を探す為、精一杯の力を出して空を飛んだ。
 このまま「ありがとう」も言えないでお別れをするのが嫌だから。
 せめて、何か恩返しをしたい。
「ピィ――――ッ」
 そのピッピの声は、悲しいことに少年には届かなかった。
 次第にお腹が空き始め、喉も渇いて、空も暗くなった。
「見つからないよ……」
 ピッピは、あれからも少年を探し続けていた。
 そうして、あれだけ暑かった夏が終わり、冬になり、ピッピも一人前の大人へと成長した。あの日の、あの出来事を忘れることなく記憶に留めながら、いつかまた再会できる日を夢に見て。
♪ ♪ ♪

 また、茹だる夏がやって来た。凄い音を出しながら走る電車の高架下、少年はゲームショップへと向かうべく、自転車を走らせていた。その年も例年通りに暑くなるとテレビでもやっていた為、少年は、途中で水分補給をしながら、目的地へと向かう。
「ふうー、今日も暑いなぁ」
 今日は、待ちに待った新作のゲームの発売日だ。
 この日の為にお小遣いも溜めていたし、ゲーム雑誌で予習もして来た。
「今日を逃したら、またいつ入荷するか分からないからな」
 新作のゲームは、巷で大人気のモノで、シリーズ累計で数千万本も売られている。その重厚な作りと、感動的なストーリーは、ゲームファンでなくても一見する価値がある。
 少年は走る。自転車を漕ぐ。
 その時、キキィ――ッと、急ブレーキがかかった。
 それは、野良猫が地面を這っている小鳥を標的にしている現場だった。
「流石に……無視する訳にはいかないか」
 少年は、自転車のベルを不規則に鳴らし、野良猫を追い払った。
 そのあと、這っていた小鳥を保護すると、
「お前、飛べないのか……?」
 小鳥は、あの日に保護したピッピに似ていた。
「うーん、これも運命ってやつなのかなぁ」
 少年は、ゲームショップへと急いでいた途中だ。此処で小鳥を拾えば、確実にゲームは売り切れになる。
「はぁ」と溜め息を吐くと、少年は、仕方ないといった表情で小鳥を連れて帰ることにした。流石に、飛べない小鳥を置いておけば、また野良猫に襲われるだろうし、こんな暑い日では、脱水症状で死んでしまうこともある。
「しっかし、俺は何でこうも鳥に好かれるんだぁ?」
 別に鳥が嫌いという訳じゃない。ただ、ピッピの時もそうだった。今回ので偶然にしては出来過ぎだ。
「……ピィ……」
 小鳥のツバメは、ひどく衰弱しているようだった。
「ああ、待ってろ。すぐに病院に連れて行くからな」
 一年前と同じ獣医さんは、
「これは……最悪、飛べないかも知れないね」
 と非情にも告げた。
「どういうこと?」
「肩の辺りが骨折しているんだよ。何かにぶつかったのか、襲われたのか……とりあえず、治療はしておくけど、もしもの時を覚悟して下さい」
 獣医さんの言う「もしもの時」というのは、間違いなく「死ぬ」時だろう。
 少年は、肩を落とした。
 折角、助けても、二度と空が飛べなくて、死ぬかも知れなくて。
「……ごめんなぁ……」
 人間の言葉など理解できるはずもないツバメに、少年は謝った。
 生きられる時間を少し延ばす程度では、ある意味では残酷なのかも知れない。
 即日から、少年はゲームもそっちのけで、小鳥――ピィの看病に努めた。
 ミルワームをピンセットで掴んで食べさせたり、スポイトで水を飲ませたり。
 然し、一日、二日、三日と経つと、当初の予想通りのことになる。
「ピィちゃん……」
 手の平の中で、衰弱しているピィは、辛うじて呼吸をしているという状態だ。
 まるで虫の息とも言うべきか、全身で息をしている様は、もう長くないことを物語るようだ。
「ピィ…………」
 最早、ご飯を食べる力も残っておらず、水ですら飲めない。
 そうして五分、十分、十五分――ピィは、静かに息を引き取った。
 あのまま、野良猫に襲われているのを放置しておけば、或いは、僅かな苦しみで済んだのか。変に助けてしまったばかりに、苦しみを長引かせてしまったのか。
 少年は、自宅の庭に穴を掘ると、そこに、ピィの亡骸を埋めた。
「俺には、このぐらいしかできないけど……」
 近くで咲いていた花を数本摘んで、それをお墓にそっと添えた。
「ピッピは、今頃は元気に空を……」
 それから、何週間か経った。
 その日、窓際にある机の前に座って勉強をしていると、
「……ん?」
 黒い影が、幾つも外に見えた。
 一つや二つではない、それこそ沢山の数の影だ。
「何だろ……?」
 窓を開け、空を見た瞬間――、
「え……これって……!?」
 見覚えのある姿、そのシルエットは、紛れもなく「アレ」だ。
 巣立ちを終えた小鳥のツバメが、無数に家の周りを飛んでいる。
「ツバメが……でも、何で!?」
 その時のこと、少年は、自分の目を疑った。
 二羽のツバメだけが、妙に低空で飛んでおり、その足首には、赤と青の何かが巻かれている。
「いや、そんなことある訳が……だけど、これは……」
 考えられない。考えられるはずがない。
 けど、以前に本で読んだことがある。ツバメは、帰巣本能があって、毎年のように戻ってくることがある――と。
「まさか、お前なのか? ピッピ?」
 少年の「ピッピ」という名前を聞いた時、青いテープの巻かれたツバメが窓際に降りて来た。それに釣られるように、赤いテープのツバメも降りてくる。
「やっぱり、お前なんだな?」
 それは、少年と別れて半年が経った頃だった。
 ピッピは、偶然にも自分と同じテープが巻かれた仲間を見つけていた。
『キミは、何を足に巻いてるの?』
 ピッピは、その仲間に訪ねた。
『わたしは、ある人間にお世話になったんだ。これは、その時のものだよ』
『その人間って、どんな人間?』
『おじいさんだよ。凄く面倒を看てくれて、お陰で今日も生きていられる』
 ピッピは、自分と同じ境遇に驚きを隠せず、
『もしかして、そのおじいさんの住んでる家って……?』
『うん。今から帰るところなんだ。良ければ一緒に来るかい?』
 ピッピは、淡い期待を寄せながら、仲間のあとを追っていく。
 そこで、見つけた。そこで、出会えた。
 遠くからでも分かる。その姿は、見間違えることがない。
「ピッ――」
 少年も同じように見間違えることがなかった。
 このテープは、自分が巻いたものだから。もう一羽の方もきっと祖父ちゃんが巻いたもの。
「そうかそうか、元気にしてたかっ」
 少年は、二枚のテープを優しく剥がした。
 そのうちの一枚には、内側に「空」と書かれたボロボロの紙が付いていた。
「空……かぁ。俺、宝物って、とっくの昔に見つけてたんだ……」
 宝探しゲームの答えが、こんなにも広い空だったなんて。
 祖父ちゃんらしいというか、これでは謎がけと同じじゃん。
「ま――これも運命なんだろうな」
 少年は、ピッピを含めた二羽のツバメを見つめた。
「でも、ありがとうな。ピッピ……あと、名前がないけど、ピッピ二号」
 その言葉に呼応するように、ピッピたちは、「ピィ」と鳴いた。
 そして、ピッピたちも自分のするべきことを終えると、静かに羽ばたいた。
 きっと、もう会えないかも知れない。
 きっと、これが最後の奇跡になるかも知れない。
 それでも、忘れない。忘れたくない。
「バイバイ。今度こそ、お前たちは自由だ」
 少年の言葉を理解したか定かではないが、一羽ずつツバメが遠くへと飛んでいく。
「いつか――俺も空へ」
 必ず、祖父ちゃんと同じ世界に行く。
 この広い空を飛ぶんだ。ピッピたちと同じように。
「じゃあな。ピッピも、祖父ちゃんも……っ」
 少年の瞳は輝いていた。それまで、祖父との想い出を辿る為に、悲しみを誤魔化す為に、宝探しゲームに希望を寄せていた。それも、もう終わりにしよう。これからは、過去のことじゃなくて、未来の話しを始めるんだ。

 それから何年も経ち、ツバメの群れを見ることはなくなった。
 家の周りに飛んでいることもなく、町中で時々見かける程度だ。
 けれど、ふと鳴き声が聴こえると懐かしくなって、つい探してしまう。
 ピッピ――空は、今日も綺麗かい?
 祖父ちゃん、今度は俺から会いに行くよ。
 今日は、俺にとっての、副操縦士になる為の大事な日。
 待っていて。必ず、叶えてみせるから。宝物は、この蒼穹にある――。
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